丘の上に月が昇る・続

◆イタリアSF友の会◆

La magica avventura di Gatto Fantasio

ムーニー・ウィッチャー『猫のファンタジオの魔法の冒険』

Moony Witcher, La magica avventura di Gatto Fantasio (2008)

 

〈ルナ・チャイルド〉シリーズの邦訳がある作家の幼年向け(5~8歳向けらしい)ファンタジーシリーズの第1巻。 舞台は猫たち(二足歩行)が住む世界〈ミーチョニア〉(ミーチョ[イタリア語で猫の愛称、「ニャンコ」みたいな感じ]+ニア)。主人公の少年ファンタジオは、フクシア色(濃いピンク)の毛に覆われて生まれてきた特別な猫。この普通とは異なる色に加え、生まれつきのひどい近眼、おまけに、異様に大きな尻尾。学校でうまくやっていけるだろうかと両親は心配で仕方がない。なにより、黒の縞模様の大きな尻尾が曲者で、尻尾を動かすと、魔法を使えるらしいのだ(通常、魔法を使えるのは魔法使いの国に住んでいる魔法使いだけ)。でも、うまくコントロールできずに勝手に魔法が発動するし、噂も広まり、記者も殺到するなど、ファンタジオの周りではいつも騒動が巻き起こる。実は、フクシア色の特別な猫だけが、幸せをもたらす〈猫の宝玉〉を見つけられるという伝説があり、魔法使いたちはファンタジオに興味津々。 本書の冒頭には、この世界の地図が描かれていて、それぞれの地域の特色や、〈猫の宝玉〉を巡る伝説や歴史もかなりのページを割いて詳細に記されている。このシリーズには壮大な背景があるらしい。とはいえこの巻では、ファンタジオと仲良しの二人の女友達(うち一人はやがて恋人になる)との楽しい日々や、ちょっかいを出してくる悪ガキトリオなど、基本的にはファンタジオの日常生活が描かれている。毛の色が他と異なることで、ファンタジオが落ち込んだり、両親が心配したり、悪ガキトリオにからかわれたり、嫌な状況に陥ったり、でも、友達や家族が支えてくれたり。本巻は主要人物の紹介を中心としたオープニングで終わっているけれど、事件の種をあちこちに撒いている感じもあり、今後の展開が楽しみ。