Eclissi 2000
リーノ・アルダーニ(Lino Aldani)の長篇第2作『Eclissi 2000(エクリプス2000)』(1979年)の紹介。最初の版は古本屋を探すしかないが、Perseo社から出ているアルダーニ著作集の『Aria di Roma andalusa』(2003年)に収録されているので入手はたやすい(現在はElara社が販売を引き継いでいる)。2006年にはUrania Collezione叢書からも再刊された。アルダーニの代表作の一つ。
宇宙船〈母なる地球〉号は、遥か彼方のプロキシマ・ケンタウリを目指して航行している。何世代も後の子孫が目的地にたどり着く世代宇宙船だ。船で暮らす者たちは三つの階級に分かれている。〈白〉に属する少数の者たちが権力を持ち、宇宙船の頭脳部分を管理し、〈赤〉と〈緑〉に属する多数の者たちを統べている。〈赤〉と〈緑〉は交代で労働を行ない、片方が起きているときは片方が睡眠を取っているという状況なので、この二つの階級の者が会話するのはなかなか難しい。船内には〈白〉にしか入ることが許されない場所もある。(なお、緑‐白‐赤の色はおそらくイタリアの国旗から)
〈赤〉に属する主人公(であり語り手)の青年ヴァルゴは、〈緑〉に属する相部屋の同僚の失踪が気になるが、入れ替わりに女性が入居してきたこと(異性がペアになるのは普通のことではない)も非常に気になっていた。また、この船は実はあてもなく放浪しているのではないか、目的地にはたどり着かないのではないかという疑いの声も耳にする。〈白〉の専制的な管理に対する不満も増し、不穏な空気が広がりつつあった。ヴァルゴは調査と思索の末に船の真実にたどり着き、それによって〈白〉の階級に迎えられ、一部の者しか知らない秘密を教えられる。
だがこの作品の主眼はそうした「世界」の転覆にはない。真実が明かされた後の展開こそが、アルダーニの本領発揮と言える。アルダーニは、権力と知の関係を暴き、自分の足元が分からない実存的な不安を描き出す。主人公ヴァルゴは自分の父と母が誰なのかも知らない。明かされた知も権力によって改竄されたものかもしれない。ヴァルゴは教えられた「真実」にすら疑いを抱く。
アルダーニの長篇1作目の『Quando le radici』(1977年)では、自分を見失い、大都市を捨てた主人公にとって、ジプシーが魂の救済となったが、本作の主人公は自力でなんとかしなければならない。その解決が結局は悲劇を生むことになるとしても。