Bell’Italia, n.468

定期購読しているイタリアの旅行雑誌『Bell’Italia』4月号(n.468)が届く。今月号で特に目を引いたのは、標高800メートルの山の上にあるモンテフィオリーノ博物館の特集。かつて、イタリア解放に一年先んじて、パルチザンがドイツ軍を掃討し、解放区であるモンテフィオリーノ共和国を設立した地。この博物館にはこの共和国の記憶が展示されているという。一度行ってみたい。

2025年イタリア賞
2025年イタリア賞受賞者・受賞作リスト
Artista(イラストレーター):Maurizio Manzieri
Curatore(編集者):Emanuele Manco
Traduttore(翻訳者):Sandro Pergameno
Collana(叢書):Odissea Fantascienza, Delos Digital
Rivista professionale(商業誌):Fantascienza.com, Delos Books
Rivista o sito web non professionale(非商業誌):
Fondazione SF, https://www.facebook.com/FondazioneSfMagazine/
Saggio(評論):Giuliana Misserville, Ursula K. Le Guin e le sovversioni del genere, Asterisco Edizioni
Romanzo di Fantascienza(長篇SF):Claudio Chillemi, Katane, Delos Digital
Romanzo Fantasy(長篇ファンタジー): Lukha B. Kremo, Le cronache di Leg Horn, la nuova carne
Antologia(アンソロジー):Lino Aldani, La casa femmina e altri racconti, Mondadori
Racconto su pubblicazione professionale(商業誌掲載の短篇):Franci Conforti, Metallo e vetro, Urania, Mondadori
Racconto su pubblicazione amatoriale(アマチュア誌掲載の短篇):Clelia Farris, Il paradiso degli sciocchi, Specularia
Articolo su pubblicazione professionale(商業誌掲載の記事):Carmine Treanni, Lino Aldani, le radici della fantascienza italiana, Millemondi Urania, Mondadori
Articolo su pubblicazione amatoriale(アマチュア誌掲載の記事):Claudio Chillemi, The Fab Four – Il Fantastico Mondo dei Beatles, Fondazione SF 32
Romanzo internazionale(外国の長篇作品):John Scalzi, L'eredità di Charlie, Fanucci
Fumetto(コミック):Bruno Enna, Davide Cesarello, 500 piedi, Topolino 3597-3602
Film fantastico (premio non ufficiale)(SF・ファンタジー映画:非公式の賞):Dune Parte II
Serie televisiva (premio non ufficiale)(テレビシリーズ:非公式の賞):Fallout
イタリア賞(Premio Italia)の受賞者・受賞作は、毎年行われるイタリアSF大会の参加者の投票によって決定される。ざっと見て個人的に気になったのは、長篇のClaudio Chillemi, KataneとLukha B. Kremo, Le cronache di Leg Horn、それから短篇のClelia Farris, Il paradiso degli sciocchi。
Il paradiso degli sciocchi(愚者の天国)はWebマガジン《Specularia》に掲載された作品で、《Specularia》は時々見ていたけれど、クレリア・ファッリス作品が掲載されていたのは見落としていた。久々の新作で嬉しい。
Attenti al Lupo
今年も年刊同人誌『SFファンジン』内の『イスカーチェリ』にイタリアSF短篇の翻訳を寄稿します(たぶん夏頃刊行)。サンドラ・モレッティ(Sandra Moretti)「狼に気をつけろ」(Attenti al Lupo)(WORLD SF ITALIA MAGAZINE N.6, Novembre 2023に掲載)を予定。童話の赤ずきんちゃんがモチーフの作品で、パンデミック後、生活に不可欠のものとなった完全自動フードデリバリーサービス、その独占企業を巡る事件が描かれています。

著者のサンドラ・モレッティは長篇シリーズ『エータの島(L'isola di Heta)』で注目を浴びました。父の葬儀中、突然見知らぬ世界に跳ばされた女性。そこは超管理社会で、彼女は異分子として追われることになる、というお話。このシリーズはまだこの1作目しか読んでいませんが、シンプルな文章で非常に読みやすく、主人公を助ける若き警察署長との淡いロマンスは楽しく、そしてこの世界と彼女との(そして彼女の家族との)隠された関係が次第に明らかになっていく様は非常にスリリングです。シリーズ2作目の『エータの島:複数世界(L’Isola di Heta : Diversi mondi)』は2020年のヴェジェッティ賞長篇部門の最終候補作にノミネートされました。

モレッティは短篇作品も好評で、2023年に「火星のアジサイ(Ortensie su Marte)」でヴェジェッティ賞を受賞、そして2024年もこの「狼に気をつけろ」で同賞を受賞しています。
Il giorno in cui vinsi la guerra del passato

ダヴィデ・デル・ポーポロ・リオーロの短篇「私が過去の戦争に勝った日」(2021年)の紹介。
Davide del Popolo Riolo「Il giorno in cui vinsi la guerra del passato」(『Temponauti』(Urania Millemondi 90, Mondadori)掲載)
2014年に歴史改変古代ローマ+ウェルズ『宇宙戦争』モチーフのSF長篇『De Bello Alieno(エイリアン戦争について)』でデビューしたダヴィデ・デル・ポーポロ・リオーロ。2019年の長篇『Übermensch(超人)』でイタリア賞の国内長篇部門を受賞したが、その後、書き下ろし時間SFアンソロジー『Temponauti(時間航行者たち)』(2021, Urania Millemondi 90, Mondadori)に掲載された短篇「Il giorno in cui vinsi la guerra del passato(私が過去の戦争に勝った日)」(掲載)で2022年度イタリア賞の国内短篇部門を受賞。
ベルリンの時間研究所で、過去と繋がる時間ゲートの実験を行なっていたところ、ゲートから現れたのはヒトラーと部下たちだった。彼らは研究員たちを虐殺し、研究所を制圧する。だがこれは実験のチームリーダーだったランツマン教授の陰謀だった。ヒトラーを信奉する彼は、実は事前にヒトラーと接触し、未来に呼び寄せてドイツ、いずれはヨーロッパの征服を実現させることを目指していたのだ。ただ一人逃亡に成功したハキム教授は、外部との連絡を絶たれて完全に孤立した研究所敷地内で、会話型AIと協力して事態の打開を目指す、という物語。
事態はかなり深刻なのだけど、ハキム教授とAIのやり取りがユーモラスで面白く、オチを含めて、実は多少コメディ寄りの作品。ただ、歴史を知っていないとオチが面白くないかもしれない。
ブログ移行のお知らせ
旧ブログ「丘の上に月が昇る」(http://tsukimidango.seesaa.net/)から、この新ブログ「丘の上に月が昇る・続」に移行することにいたしました。今後ともよろしくお願いいたします。
Eclissi 2000
リーノ・アルダーニ(Lino Aldani)の長篇第2作『Eclissi 2000(エクリプス2000)』(1979年)の紹介。最初の版は古本屋を探すしかないが、Perseo社から出ているアルダーニ著作集の『Aria di Roma andalusa』(2003年)に収録されているので入手はたやすい(現在はElara社が販売を引き継いでいる)。2006年にはUrania Collezione叢書からも再刊された。アルダーニの代表作の一つ。
宇宙船〈母なる地球〉号は、遥か彼方のプロキシマ・ケンタウリを目指して航行している。何世代も後の子孫が目的地にたどり着く世代宇宙船だ。船で暮らす者たちは三つの階級に分かれている。〈白〉に属する少数の者たちが権力を持ち、宇宙船の頭脳部分を管理し、〈赤〉と〈緑〉に属する多数の者たちを統べている。〈赤〉と〈緑〉は交代で労働を行ない、片方が起きているときは片方が睡眠を取っているという状況なので、この二つの階級の者が会話するのはなかなか難しい。船内には〈白〉にしか入ることが許されない場所もある。(なお、緑‐白‐赤の色はおそらくイタリアの国旗から)
〈赤〉に属する主人公(であり語り手)の青年ヴァルゴは、〈緑〉に属する相部屋の同僚の失踪が気になるが、入れ替わりに女性が入居してきたこと(異性がペアになるのは普通のことではない)も非常に気になっていた。また、この船は実はあてもなく放浪しているのではないか、目的地にはたどり着かないのではないかという疑いの声も耳にする。〈白〉の専制的な管理に対する不満も増し、不穏な空気が広がりつつあった。ヴァルゴは調査と思索の末に船の真実にたどり着き、それによって〈白〉の階級に迎えられ、一部の者しか知らない秘密を教えられる。
だがこの作品の主眼はそうした「世界」の転覆にはない。真実が明かされた後の展開こそが、アルダーニの本領発揮と言える。アルダーニは、権力と知の関係を暴き、自分の足元が分からない実存的な不安を描き出す。主人公ヴァルゴは自分の父と母が誰なのかも知らない。明かされた知も権力によって改竄されたものかもしれない。ヴァルゴは教えられた「真実」にすら疑いを抱く。
アルダーニの長篇1作目の『Quando le radici』(1977年)では、自分を見失い、大都市を捨てた主人公にとって、ジプシーが魂の救済となったが、本作の主人公は自力でなんとかしなければならない。その解決が結局は悲劇を生むことになるとしても。
La magica avventura di Gatto Fantasio
ムーニー・ウィッチャー『猫のファンタジオの魔法の冒険』
Moony Witcher, La magica avventura di Gatto Fantasio (2008)
〈ルナ・チャイルド〉シリーズの邦訳がある作家の幼年向け(5~8歳向けらしい)ファンタジーシリーズの第1巻。 舞台は猫たち(二足歩行)が住む世界〈ミーチョニア〉(ミーチョ[イタリア語で猫の愛称、「ニャンコ」みたいな感じ]+ニア)。主人公の少年ファンタジオは、フクシア色(濃いピンク)の毛に覆われて生まれてきた特別な猫。この普通とは異なる色に加え、生まれつきのひどい近眼、おまけに、異様に大きな尻尾。学校でうまくやっていけるだろうかと両親は心配で仕方がない。なにより、黒の縞模様の大きな尻尾が曲者で、尻尾を動かすと、魔法を使えるらしいのだ(通常、魔法を使えるのは魔法使いの国に住んでいる魔法使いだけ)。でも、うまくコントロールできずに勝手に魔法が発動するし、噂も広まり、記者も殺到するなど、ファンタジオの周りではいつも騒動が巻き起こる。実は、フクシア色の特別な猫だけが、幸せをもたらす〈猫の宝玉〉を見つけられるという伝説があり、魔法使いたちはファンタジオに興味津々。 本書の冒頭には、この世界の地図が描かれていて、それぞれの地域の特色や、〈猫の宝玉〉を巡る伝説や歴史もかなりのページを割いて詳細に記されている。このシリーズには壮大な背景があるらしい。とはいえこの巻では、ファンタジオと仲良しの二人の女友達(うち一人はやがて恋人になる)との楽しい日々や、ちょっかいを出してくる悪ガキトリオなど、基本的にはファンタジオの日常生活が描かれている。毛の色が他と異なることで、ファンタジオが落ち込んだり、両親が心配したり、悪ガキトリオにからかわれたり、嫌な状況に陥ったり、でも、友達や家族が支えてくれたり。本巻は主要人物の紹介を中心としたオープニングで終わっているけれど、事件の種をあちこちに撒いている感じもあり、今後の展開が楽しみ。
