丘の上に月が昇る・続

◆イタリアSF友の会◆

サルガーリ短篇集

7月の文学フリマ札幌では、先に挙げたダリオ・トナーニ短編集とともに、もう1冊同人誌『月をめざして:エミリオ・サルガーリ短篇集』を頒布する予定です。

以前『二十一世紀の驚異』という本を訳したことがあるのですが、今回の同人誌は、同著者のエミリオ・サルガーリの二つのSF短篇「月をめざして(alla conquista della luna)」「流星(la stella filante)」を収録します。『二十一世紀の驚異』の訳者あとがきに、「(サルガーリの他のSF寄りの作品も)機会があればご紹介したい」と書いて、この2短篇のタイトルも挙げておきましたが、今回、同人誌という形ですが、ようやく実現できました。2短篇とも、サルガーリの想像する独特な飛行機械が登場します。

もう訳は出来上がっているので、予定通り頒布できそうです。50頁ほどの薄さになる予定。100年以上前に書かれた作品ですので、古典SF・プロトSF好きの方はお楽しみに。

ダリオ・トナーニ短篇集収録作

ダリオ・トナーニ短篇集『明日は別の世界』(仮)の収録作を簡単に紹介しておきます。各タイトルはまだ仮のものです。 「赤い海泡石」(Schiuma rossa) schiuma rossa2.jpg 2013年ロボット賞受賞作(雑誌『Robot』が毎年公募しているSF短篇賞。プロ・アマ、誰でも参加できる)。ドゥカティで囚人移送中の警官が立ち寄った村(元は海の底だった場所にある)は、夕方になるといつも現れる謎のプロペラ戦闘機の襲撃を受けていた。警官は拳銃を手に立ち向かう。未来の干からびたアドリア海を舞台にした、ウェスタン風の作品。以前に本プログでも紹介しました。 http://tsukimidango.seesaa.net/article/364671097.html 「歩く者、アブラーチェ」(Abrace il Camminatore) abrace2.jpg 特殊な〈蒸気〉によって光と熱を与えられ、都市イリリオンは機能する。この都市に定期的に〈蒸気〉を補充していたアブラーチェは数十年前に姿を消し、今はその役目を商人ファレーナが引き継いでいる。だが今、アブラーチェが帰ってくるときが来た。ジェフ・ヴァンダーミア編のスチームパンク・アンソロジー『Steampunk!』のイタリア語版に収録。 「痙笑」(Risus sardonicus) 釘にとりつかれた兄と、その妹。山小屋で孤独に暮らす二人は、狂気の淵に落ちていく。幻想ホラー色の強い80年代の作品ですが、血肉と金属と錆というモチーフは、著者の今の路線にもつながります。1989年トールキン賞受賞作(イタリアの幻想短篇作品に与えられる賞)で、諸事情によりしばらく未刊行のままでしたが、2007年になってようやく出版社DelosBooksのWeb雑誌『Delos Science Fiction』101号(紙版もあり)に掲載されました。原文は以下のサイトで読めます。 http://www.fantascienza.com/9336/risus-sardonicus 「プラスティック都市のかけら」(Schegge di una città di plastica) schegge2.jpg クモの巣のように張られた無数のケーブルで吊られた都市。そこでは各人に重量制限が課せられている。都市の支柱やケーブルを掃除する作業員のミシャとステファンは、偶然見つけた古びた昇降機で下に降りていく…。吊るされた都市のイメージは強烈です。 「朝のほこりだらけの貝殻」(Le polverose conchiglie del mattino) polvere2.jpg 自動車と人間の共生体〈ヤドカリ〉と、テクノロジーに敵意を向ける〈ノー・テック〉との熾烈な争い。その先に見えてくる異様な未来のヴィジョン。トナーニ節炸裂の一品です。 刊行をお楽しみに。

当選

7月23日開催の文学フリマ札幌の出店の抽選が行なわれましたが、「イタリアSF友の会」は運よく当選し、参加できることになりました。というわけで、改めて告知。頒布予定の同人誌は、今のところ以下の通りです。

■ダリオ・トナーニ短篇集『明日は別の世界』(仮題)

文庫サイズ・250頁くらい・オンデマンド印刷

収録作:(邦題は仮)

「赤い海泡石」(Schiuma rossa)

「歩く者、アブラーチェ」(Abrace il Camminatore)

「痙笑」(Risus sardonicus)

「プラスティック都市のかけら」(Schegge di una città di plastica)

「朝のほこりだらけの貝殻」(Le polverose conchiglie del mattino)

『モンド9』を面白がってくださった方にはきっと面白がってもらえるのではないかと思います。短篇集タイトルはトナーニ氏の案を採用(『風と共に去りぬ』の台詞のもじり)。で、こつこつと翻訳を進めています。というわけでお近くの方も遠くの方も、よろしくお願いいたします。

イラストコンテスト

イタリアで、Mondo9のイラストコンテストがある模様です。主催はVaporosaMente、スチームパンクのイベント団体で、著者のDario Tonani氏とイラストレーターのFranco Brambilla氏が協力しています。題材は1)船部門、2)登場人物、クリーチャー部門、3)環境、風景部門、の3つ。審査員は上記の二人と、コミックアーティストのMassimo Dall'Oglio氏です。締め切りは4月9日。で、5月22日のスチームパンクイベント〈VaporosaMente〉で各部門の優勝作品と、さらに総合優勝者を発表。総合優勝者にはMassimo Dall'Oglio氏のサイン入りオリジナルイラスト。各部門の優勝者には、著者サイン入り『Cronache di Mondo9』(Franco Brambillaの手書きイラスト付)、著者二人のサイン入り『The Art Of Mondo9 - Chronicles and Concepts』、イベントで使用できる30ユーロ相当の金券だそうです。おもしろそうだけれど、日本から応募できるのかどうかは不明。

http://vaporosamente.blogspot.jp/2016/02/contest-dillustrazione-immagini-da.html

イベント

もう少し先の話ですが、7月23日の「文学フリマ札幌」に、個人サークル「イタリアSF友の会」として参加予定です。著者の協力を得て、翻訳同人誌「ダリオ・トナーニ短篇集」を頒布予定(小部数ですので、オンデマンド印刷です)。収録作品は「Schiuma rossa」「Abrace il Camminatore」「Schegge di una città di plastica」「Le polverose conchiglie del mattino」「Risus sardonicus」の短篇5作品。表紙イラストは『Mondo9』イラストのフランコ・ブランビッラ氏に描いていただきました。翻訳は、地道に進めています……。関心のある方はどうぞよろしく。詳細はそのうちに。

ネット上で読めるDario Tonaniの短篇

インターネット上で、ダリオ・トナーニ(Dario Tonani)のショートショートや短めの短篇がいくつか無料で読めますので、簡単にまとめておきます。

■Soldato Jordan(兵士ジョーダン)

http://www.fantascienza.com/13991/soldato-jordan

1979年刊行のDan Dastier著『L'antimondo di Vega』におまけとして収録。当時トナーニ氏は20歳頃というごく初期の作品。兵士ジョーダンが戦っている兵士はいったい…?戦争の不条理さが描かれている。

■Action Writer(アクションライター)

http://www.fantascienza.com/16057/action-writer

2012年の作品。この『Delos Science Fiction 141』のための書き下ろし。ミラノの夕暮れ。アパートの一室で黙々と執筆を行なっている作家。そして、屋根の上でそんな光景を眺めている者たち。彼らが手にしている物品は、どうもちぐはぐで……。読んでいくうちに「ああ、こういうことなのか」とわかって、ニヤリとさせられる。

■Silvestroscopio(シルベスター・スコープ)

http://www.next-station.org/fe-sty-d.php?_i=230

これは長篇作品『Infect@』『Toxic@』のスピンオフ作品(2011年)。これらを読んでいないとわかりにくいと思いますので、設定を簡単に説明しておきます。近未来のミラノでは、特殊な光学ドラッグが大流行。でもそれには、カートゥーンのキャラクターが実体化してしまうという副作用があった(ロジャーラビットがもっと肉っぽくなった感じを考えてもらうとわかりやすいかも)。そんなわけで、さまざまなキャラが、奇妙な肉質の体を持ち、そこらじゅうに溢れかえってしまう。キャラはしゃべれないが、コミックのふきだしのようなものを使って人間とコミュニケーションが取れる。また、キャラの肉体にはセル画(“胎盤”と呼ばれる)が埋まっていて、それを取り除くと、その肉体はぶよぶよになって、キャラは死んでしまう、といったことが基本設定。

この短篇「Silvestroscopio」(シルベスター・スコープ)には、ルーニー・テューンズのキャラクター、シルベスター・キャットが登場。胎盤処理施設に忍び込み、積み上げられたカートゥーンキャラの死体を漁っているひとりの少年。お気に入りのキャラであるシルベスター・キャットの死体を探している。カートゥーンキャラの抜け殻の中に(着ぐるみのように)入ると、カートゥーンキャラの視覚で外界を見ることができるからだ。ようやく見つけ、ひどい腐敗臭のする年老いたシスベスターのぶよぶよの抜け殻の中に入るが、警備員に見つかってしまい……。カートゥーンキャラの目に映る世界の表現が面白い。

■Tauromachia(闘牛)

http://www.minuticontati.com/tauromachia-tonani/

Mondo9の二次創作アンソロジー『Tutti i mondi di Mondo9』(Delos Books, 2014年)の最後を飾る、著者自らによるわずか一ページのショートショートですが、ネットでも読めます。猛り狂った牛と〈継手タイヤ〉の一対一の決闘。観戦する観客の熱狂と興奮。機械の描写なのか肉体の描写なのかわからなくなる、まさにMondo9の世界。

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ほかにもいくつかありますが、そのうちに。